2012年8月20日月曜日

2泊目の朝、遅い朝食をとっているのは、日本人ばかりでした。あいにくの霧雨でアイガー北壁には、もやがかかっています。となりのテーブルの会話が耳に入ってきました。

「まず登山電車でヨッホまで登るでしょう。そこでお昼を食べて……」
女性の声は母親です。
「ぼく、プールがいい」
「プールならフランクフルトでも行けるでしょう」
「連れて行ってもらったことないもん」
「ゆう君、わがまま言わないで」
「先にプールで遊んでから出かけるのはどうかな。こんなお天気なんだし」
父親が発言しました。このホテルには大きな屋内プールがあります。
「プールで遊んでシャワーを浴びて、着替えをして、それから? 何時になると思うのよ」
「30分だけプールっていうのはどうかな」
「ぼく30分じゃ、やだ」
「わからないわね。プールは戻って来てから」

そういう会話のあと、3人は席を立ちました。
ウエイターが「Have a nice day! byebye」と声をかけても、無言で行進。
フランクフルト駐在ならこちらの習慣はわきまえているはずです。機嫌がよくなくても「Thank you」くらいは言えるでしょう。
前日の朝のツアー客たちも、スタッフに何を話しかけられても、たいてい無視していました。言葉がわからないにせよ、反応を示さないのは失礼でしょう。

日本だとお店や食堂に入るとき店の人から「いらっしゃいませ」と声をかけられても、客が黙っているのはふつうです。買い物をして「ありがとうございました」と言われても同じです。
あれほど学校でも会社でも、挨拶の大切さを叩き込まれるのに、なぜそれが当たり前なのでしょうか。

接客業における細やかな気配りの行き届いたサービスは日本の文化です。お手本にしている外国の企業も少なくありません。自分が接客をする側のときと「お客様」のときの非対称性を「それが商売というもの」で片付けてしまってよいのでしょうか。

そのスイッチのオンオフがきっちりしているほど、接客モードでないときは、積極的にサービスをくりだすタイミングにずれが生じるような気がします。
登山電車のなかで韓国人の瞬間的な反応ぶりを見たとき、私には無理だと感じたのは、スイッチがオフだったからと考えるとつじつまが合います。

日本人がこれからの世界を生き抜いていくとき、いらない誤解を受けないようコミュニケーション能力を身につけることが重要なのは、いまさら言うまでもありません。そのために「お客様」モードを変更するといったことも、もしかすると必要なのかもしれません。

パリ行きのJAL便でNさんに「私のことは<様>でなく<さん>で呼んでください」とお願いしたとき、「こんな素敵なアテンダントさんに担当してもらえるなんて、幸先がいいな。楽しい旅になりそうだ」と付け加えました。もちろん本心です。
とても快適なフライトが終わりに近づいたころ、まわって来られたNさんが「これまでで一番楽しいフライトでした」とおっしゃってくださいました。サービストークかもしれませんが、ちょっと幸せな気分でした。

荷造りをしたらホテルをチェックアウトして、フランクフルトに向かいます。21:05発の成田便で帰国します。

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