2009年9月2日水曜日

一喜一憂

昨晩は仕事を抜け出して、神保町の伊東乾先生のドイツ語ゼミへ。
定刻の7時になっても先生が来られず、それはいつもどおりのこととして、
5人の受講生は席についたまま、ひっそりと待つことに。

このゼミは、毎回、初級文法のおさらいをしたあと、旧約聖書と
ヴィトケンシュタインの「論考」を少しずつ読むというスタイル、
というと格好いいですが、実質的にはゼミというより講義ですね。
わかってもわからなくても、さまざまな分野で活躍中の先生から
いろいろな分野の話をうかがえるのが楽しみという会です

テキストの「中級ドイツ語」の自習に余念がないはこのゼミ古参のSさん。
一番前の席で英字新聞を広げている学生さん。「週刊聖書」をめくる合間に
チロルチョコを召し上がっておられる編集者の方。私の列のならびには
気がのらない様子で携帯に文字を打ち込んでいるFさん。

私はテキストもカバンの中の閑つぶし用の新書も開かず、ただぼんやり。
そしてこのぼんやりがなんとも言えない快感で、するすると時間が過ぎていきます。

仕事場にいても、家にいても始終何かをしている、夜中に目が覚めたときでさえ
電気をつけて本を開く、それって強迫神経症みたいなものじゃないの――
なにもしないでいられるというのが、心の自由を得られたような気がして、
満足感がこみあげてきます。

ときどき目をつぶったり、眠くもならないのでまた目を開けたり、
意識がとんだ覚えもないのに気がついたら7時50分。
左の女性が席を立って事務の女性に何かをささやいてから、部屋を出て行きました。
事務の方が申し訳なさそうに「先生に連絡を取ろうとしているのですが……」
残りの4人は、どうぞお気遣いなく、と口には出さずうなずきます。
この平穏さ、静けさが肩のこりや目の疲れまで癒してくれそうで心地よい。
この場には何かの力がはたらいているのでしょうか。

コリ文は気ぜわしい一日でした。
この場で発表してしまいますが、風邪の熱でお休みの朴先生から
「病院へ行ったらオメデタだと言われちゃいました」
という電話がありました。
切迫流産のおそれがあるので、数週間は安静が必要ということで
大至急、代講の先生を手当てすることになりました。
やさしい先生方が、そういうことなら私がやりましょうと、次々に手をあげて
くれたので、こちらは一件落着。
コリ文の先生方はほんとうによい方ばかりです。

8時半になり、すっかり疲れがとれたような気がしたので、帰ることにしました。
靴をはいていると事務の方が、どうぞお詫びのしるしにと伊東先生の新刊
「楽しい騙しのインテリジェンス?」という新書を渡してくださいました。
「楽しく騙されて、頭がすっきりしました」と答えると、3本目のチョコバーを
食べ終えた編集者がハハと笑い声をたてました。

私は元来せっかちなほうで、マンガを読んだり自分で無駄に時間をすごすのは
平気なくせに、人に待たされたりすると、いらいらしがちな人間です。
それなのに昨日は、負け惜しみ抜きで、すこしもいやな気がしませんでした。
そういう「いらいらしない自分」にますます気分がよくなりました。









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