2008年11月8日土曜日

わたしのアイゼンヒュッテンシュタット



1989年以来この街はすっかり変わってしまったと、だれもが口をそろえて言う。もちろんそのとおりだろう。しかし私の実感としては「変わってないな!」である。泊まるつもりでいたインターホテル「ルーニック」やなつかしいディスコ「アクティビスト」は廃墟になっていた。製鉄所の正門があったあたりには「バーガーキング」が開店している。通りで見かけるのはVWやアウディ、トヨタやホンダ。でもそのほかは見事になにも変わっていない。すくなくとも表面的には。

住居の多くはペンキで化粧をされていくらか若返って見える。そのせいで、かえって時の流れを逆もどしにされたような変な錯覚をおぼえてしまう。
我われと下請けのユーゴスラビア人作業員の宿舎だったAWH3(Arbeiter Wohnheim 3)も外観はそっくりそのままだ。通りの名前もあいかわらずKarl-Marx Str.である。

玄関から通勤着姿の仲間たちがあらわれて「今晩アクティビストつきあってくれる?」などと話しかけられても、きっと不思議な気がしないだろう。
並んでバス停に向かって歩きながら「きょうはマグネットだよ」と答えるは、やはり20代の私のはずだ。ふわりと空気がゆらいで、日差しのなかに酸洗塔からはきだされる錆びのにおいが香った。

「ディズニーランドに行くと俺なんかでも童心にもどっちゃうんだよな」などという言葉を聞いても、ばかばかしいとしか思わなかったが、生活にくたびれはてた中年男が異世界の魔法にとらわれるってことはあるのだ!とわが身で実感。無邪気な話――だろうか。考えすぎかもしれないが、無意識のうちにでも自らが望んでしまえば、どんなドグマでもオカルトでもつけこまれかねない。すぐに悲観的なことと結びつけて考えるのはわるい癖です。

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